2015年04月13日

入試業務1

以前、「外部オプションとしての留学」で、憶測を交えて大学院の選考過程について述べた。今年は勤務先のUCSDで大学院の入試業務に携わったので、内側から見ることができた。今回はその経験について書いてみたいと思う。

入試業務に関わるまで知らなかったのだが、競争率の高いこと高いこと。定員20人に対して800人ぐらいの応募があった。UCSDは州立大学なのでアメリカ人を優遇しており、応募人数はアメリカ人200外国人600ぐらいだが、入学時点で10人ずつになるように合格者を決めている。さらに、アメリカ人の方が入学を辞退する傾向にあるので、合格者はアメリカ人40人、外国人20人ぐらいである。したがって実質的な倍率(応募者に占める合格者の割合の逆数)はアメリカ人5倍、外国人30倍である。

選考委員会は5人からなり、各願書を二人が審査するので、単純計算で一人あたり320人が割り当てられる。言わずもがなのことだが、我々はそれなりに忙しいので、一つ一つの願書をじっくり読んでいる時間はなく、1つに割けられる時間はせいぜい5分から10分ぐらい。なので合格するには「他の出願者から際立っているとすぐ分かる願書」を作ることが非常に重要だ。

では、我々は800人の願書をどのように処理しているのだろうか?知られざる選考過程の裏側を紹介しよう。

出願締め切りが過ぎると、まず事務職員がGREとTOEFLの点数をチェックし、「暫定合格」(700人ぐらい)と「暫定不合格」(100人ぐらい)に分ける。但しこの過程は厳密ではなくて、足切りを受けた願書も選考委員の一人が軽く目を通し、宝が埋蔵されていないかを見る。「暫定不合格」でも目を引いた願書は「暫定合格」に移されるが、「暫定不合格」に留まった願書は正式に不合格になる。

次に、アメリカ人と外国人では合否判定基準が異なるので、二つに分ける。その上で、願書は出身大学によってランク付けされる。これは、似たような大学出身の願書をひとまとまりにすることによって判断しやすくするためであって、必ずしも低ランクの大学を差別しているわけではない。ランク付けといってもおおまかで、国ごとにTier 1, 2, 3, 4の一覧表があり、日本だとTier 1は東大・京大・一橋・早慶などといった調子である。(実は京大はTier 2に分類されていたのだが、私が間違いを指摘してTier 1になった。尤も、日本人の出願者は非常に少なくて、ほとんど皆東大出身だったので影響はなかったのだが。)

似たような成績及び推薦状があれば、ランクの高い大学出身者を優先するが(大学の成績は相対評価なので、同じAでも高ランク大学のAの方が価値がある)、逆にTier 1大学の5位の学生とTier 2大学のダントツ1位の学生では、後者に軍配が上がる気がする。それはさておき、こうして分類された願書が我々審査官に割り当てられるのだが、それは次回。
posted by Alexis at 09:51 | 学習関連の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月03日

入試業務2

GREとTOEFLの足切りを切り抜けた願書を我々がどう判断するかであるが、見るべきポイントは大きく分けて
  1. 数学の授業をどれだけ取っているか
  2. 大学の成績
  3. 推薦状
  4. Statement of Purpose (志望理由などを書いた作文)
  5. Writing Sample (論文・レポートなどを添付してもよい)
の5つ。以下、それぞれについて詳しく述べよう。

願書を送る際、大学の成績とは別に、今までに受講した数学・統計学・経済学の授業(とそれぞれの成績)の一覧表を作成することを求められることが多い。これは、これらの科目の成績の良し悪しが大学院の授業について来られるか、またどれだけ大学院に進学する準備ができているかの判断材料になるからである。大学院に応募する以前に数学の準備をすることは非常に重要である。最低限解析と線形代数は取っていないと、"limited math background"と言われてそれだけで不合格になりかねない。応募者の中には微分方程式・偏微分方程式・測度論・関数解析・複素解析・位相空間論・代数など受講している者もいる。ここまでする必要はないが解析・線形代数プラスアルファを受講しAを取ろう。(ちなみに経済学で使う数学は解析・線形代数・測度論・関数解析・位相空間論でほぼ十分。代数はほとんど関係なく、微分方程式・偏微分方程式・複素解析もあまり使わない。それよりは凸解析や動的計画法など応用数学の方が価値がある。)

大学の成績は非常に重要である。ただし、全体的な平均点よりも、数学・統計学・経済学の重要科目できちんとAを取る方が重要だ。Aのとりやすい科目ばかり取っても数学がおろそかだと"taking lots of garbage class"(口の悪い同僚の言葉)と言われかねない。ちなみに私は医学部に在籍していた関係で、いわゆる重要科目は取っていなかったし、大学の成績もB, Cばかりであった。それでも合格できたのはおそらく教養課程の数学(解析・線形代数・微分方程式・微分幾何学・統計学)が全部Aだったことと、東大の修士に2年間在籍して大学院レベルの経済学の授業を受講してAを取ったからだと思われる。

推薦状も重要だが、内容よりも形式の方が重要だ。推薦状を書いてくれる教官は書くことを承諾した以上、きっとあなたのことを高く評価しているだろうが、それをどう文章にするか。ポイントは「客観的に、具体的に、簡潔に」だ。我々選考委員は皆忙しく、300の願書に添付される900の推薦状をじっくり読んでいる時間などない。「この学生はクラス何人中何番だった」「この学生は過去どこどこの大学院に進学した誰々と同程度」など具体的に書くと、他と際立つ。東大生が留学で有利なのは、もともと多くの東大生が留学しており推薦状を書くのに比較対象があるのが大きい気がする。一方「この学生はまじめで、熱心で、」などと抽象的に書いても全く無意味だ。また、推薦状の内容もさることながら、誰に推薦状を書いてもらうかもよく考えた方がよい。国際的に知名度のある教授が強く推薦する学生は当然有利だ。一方、知名度のある教授が「この学生は中程度」と書いたら不合格は確実なので、推薦状を頼む前にどの程度の強さの推薦状を書いてもらえるか相談してもよい。

Statement of Purposeはあまり重要ではない。私の場合、数学の成績・大学の成績・推薦状だけ見て判断してしまうことが多い。それらを見ても何の手がかりがないときにのみ、Statement of Purposeに目を通すことがある。ただし、ある同僚は推薦状は退屈なのでStatement of Purposeこそ見るのだという。

Writing Sampleもそれほど重要でない気がする。まだ大学院に進学していないのに高度な論文が書けるとは誰も期待していないからである。Writing Sampleを添付するかどうかは任意であることが多いので、力作があれば添付してもよいが、駄作しかないなら添付しない方がよいのではなかろうか。聞いた話だが、今年Yaleに合格した学生が、剽窃を理由に合格を取り消されたそうだ。当然のことながら剽窃は命取りなので絶対してはいけない。
posted by Alexis at 12:18 | 学習関連の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月17日

急がば回れ、海外PhDへの道

前回の記事、「入試業務1, 2」では、経済PhDの選考過程を紹介することで間接的に入試対策のポイントについて述べた。要点は「数学」「大学の成績」「推薦状」で、かつランクの高い大学出身者の方が有利であるということであった。では、東大出身でないとダメなのだろうか?勿論、そんなことはない。今回は学歴で下克上する方法を紹介しよう。

まず、よく知られた方法だが、東大の大学院修士課程に入学するというものがある。多くの学生は大学に入ってから勉強するのをやめたり、学部卒で就職してしまったりするため、大学院入試は大学入試に比べてはるかに競争率が低い。なので、大学時代にきちんと勉強していれば、東大の大学院に合格できる可能性は高い(実際、私はそのような人を何人も知っている)。東大の修士課程で優秀な成績を修めれば、海外PhDへの道はぐんと縮まる。

次に、まだあまり知られていない気がするが、初めから海外留学する方法がある。留学するのが目的なのに留学するのを手段にするのは矛盾だと思われるかもしれないが、そうではない。昨今、様々な大学が経済学の2年制のマスターコースを用意している。例えば、London School of Economics, Duke, Columbia, NYU, Wisconsin-Madisonなどだ。(UCSDでも近々開設する予定がある。)これらのプログラムは、事実上PhDの予備校の役割を果たしている。大学側は、PhDのコアコースよりやや易しいレベルでミクロ・マクロ・計量・数学などの講義を提供する。学生はこれらを受講し試験を受けて、優秀なら「数学」「大学の成績」「推薦状」の三種の神器を持ってPhDに応募するのだ。授業料は年1-2万ドルと決して安くはないが(大学の目的はカネ集めで需要はあるから当然)、PhD取得後の給料を考えれば悪くはない。選考過程もPhDよりはよほど競争率は低い。

最後に、大学生が使える手として、「夏期講習」を受けるというものがある。やはりカネ集めのために、アメリカの大学は6-8月の夏休みの間、空いた教室でさまざまな講義を提供している。UCSDの場合、「UCSD Extension」で検索すればそのようなものが出てくる。そのようなプログラムで、数学を中心に受講して(かつできれば教官のCVを調べて論文を書いている人を選ぶとよい)優秀な成績を修め、推薦状を頼もう。私はそのようなプログラムの存在を知らなかったのだが、知っていれば大学時代に利用すべきだった。
posted by Alexis at 19:56 | 学習関連の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする