2014年09月03日

さらばファーストレード

私が本格的に株式投資を始めたのは2007年。「本格的に」というのは、それまで特に投資哲学もなく買ったり売ったりしていたのを国際的に分散 されたポートフォリオのBuy & Holdの長期投資に変えた、ということである。その頃、日本で売られている投資信託は信託報酬がとても高いことを知り、アメリカのETFを手がけること にした。が、アメリカ株を扱っている日本のネット証券(楽天とかSBIとか)でも取引手数料がそれなりにかかるし、取り扱っているETFの種類に限りがあるので、いろいろ調べて当時は日本人にも口座開設を認めていた数少ない証券会社であるアメリカのファーストレード証券に口座を開設した。(現在は日本人の新規口座開設はできない。)

こ の証券会社のよいところは、取引手数料が安いことに加え、預かり資産が一定額を超えるとValet Accountという口座が開け、デビットカードを発行してくれることであった。極めつけは、ATM手数料全額キャッシュバック。これの最大の利点は、世 界のどこにいようと、VISAのロゴのあるATMがありさえすれば手数料ゼロ(厳密には0.1%程度の為替手数料はかかる)で現地通貨をいつでもおろせる ことであった。クレジットカードと違ってデビットカードは即時決済なので、金利もかからない。それ以降、海外旅行では現金の心配を全くしなくてよくなり、 大変助かった。(ちなみに私がかけた初めての英語の電話は、このデビットカードのActivationで、非常にドキドキしたのを覚えている。)

ところが今年になって、Valet Accountのサービスを利用するには年会費がかかるようになり、ATM利用手数料のキャッシュバックもなくなってしまった。最大のメリットが失われてしまったので、私はファーストレードに見切りをつけ、フィデリティに 口座を移管することにした。もともと職場の確定拠出年金の403(b), 457(b)がフィデリティで運営されていたことと、フィデリティに口座を持つと以前のファーストレードのようなデビットカードや、キャッシュバック率 2%のAmerican Expressのクレジットカードが年会費無料で発行されることが理由である。フィデリティのサービスが期待に答えてくれるかどうか楽しみだ。
posted by Alexis at 07:55 | 経済関連の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月09日

金で買えないものはあるか?

経済理論では、通常は効用(幸福の度合い)の源泉は消費であると考えるが、不確実性や金融の文脈ではしばしば貨幣自体が効用の源泉であると考えることがある。Yale時代に受けた金融の授業で、貨幣の効用関数は上に有界だろうかという哲学的な問が出されたことがある。

私は哲学的な議論は好まない(「何でもあり」の世界なので)のだが、この問は一考の価値がある。仮に貨幣の効用関数が上に有界ではないとしよう。 すると、任意の自然数nに対し、u(x_n)>2^nとなるx_nが取れる。そこで、「10円玉を何回も投げて、n回目に初めて裏が出たらx_n円 もらえる」という賭博を考えると、その期待効用は
1/2u(x_1)+1/4u(x_2)+...>1+1+...=∞
となる。従って、期待効用仮説が成り立つとすると、合理的な人は賭博に参加する費用がどれだけ高かったとしても賭博に参加した方がいいことになる。しかし、この結果は明らかに直観に反するので、貨幣の効用関数は上に有界であるか期待効用仮説が成り立たないかのどちらかを採用する方がよさそうだ。 さらに、期待効用仮説を採用しないと経済学的に面白い議論ができないので、「期待効用仮説+効用関数は上に有界」を仮定するのがよさそうだ。

ということで、ちょっと古いが、「カネで買えないものはない」(ホリエモン)は誤り(何故ならば、上記の議論から幸福はカネで買えないから)で、「おカネで買えない価値がある。買えるものはマスターカードで」の前半部分は正しい。

私はこれまで人々が何故寄付をするのかよく分からなかった。合理的でないのか、それとも見栄でそうしているのか。しかし貨幣の効用が上に有界であ ると考えると、寄付という行為は自然に理解できる。つまり、富裕層になるとそれ以上富が増えても全然嬉しくないので、寄付という消費行動をすることで効用を得るのである。

(上に有界な)貨幣の効用が存在することを仮定したとしても、いろいろ不思議なことがある。例えば、私は食費を節約するために大学のセミナーのただ飯を利用することがしばしばあった。(Yaleの経済学部では殆ど毎日昼間にセミナーをやっていて、殆どいつもサンドイッチやピザなどが余っているから、セミナーには出ないのに小判鮫の如くそれらを頂戴する。経済学の教科書的には"There is no free lunch"ということになっているので、同級生と"There IS free lunch"と冗談を言いながら食べるわけだ。)また、喫茶店やバーに行くことは特別な場合を除いてなく、コーヒー豆やワインを買って家で飲む。このように、数ドル単位の飲食代を節約するために涙ぐましい努力をしている一方で、激動相場で1日に1万ドル単位で損失を出しても平然としている。(1万ドルで平然というわけには必ずしも行かないが、数千ドルだったら平然としている。)日常生活の貨幣価値と、投資の貨幣価値は主観的には異なるようだ。
posted by Alexis at 06:07 | 経済関連の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月11日

タクシーの代金

2008年のことになるが、タクシー代金を一斉に値上げしたのを覚えているだろうか?2014年に増税した際も、全国のタクシー運賃を10円単位で引き上げる方針を国土交通省が固めたのは記憶に新しい。東京ではタクシー代を値上げしたにも関わらず1台当たりの売り上げが減少したという記事があった、と記憶している。

この記事を見ても、何ら不思議に思うことはない。何故なら、これはタクシーが生活必需品ではないことを示しているに過ぎないからだ。

経済学では、弾力性という概念がしばしば登場する。ある変数Xが1%変化したときに、別の変数Yが何%変化するかをYのXに対する弾力性という。 数学的には、log Yをlog Xで微分することによって得られる。特に、ある財の価格が1%上がったときに需要が何%下がるかを財の価格弾力性という。

ある財の価格を$p$, 需要を$x$, 価格弾力性を$e$としよう。定義から、$e=-\frac{p}{x}\frac{dx}{dp}$である。従って、売り上げを価格で微分したものは、
$$\frac{d}{dp}(px)=x+p\frac{dx}{dp}=x(1-e)$$
となり、価格弾力性$e$が1よりも大きければ価格が上がると売り上げが減り、1よりも小さければ価格が上がると売り上げが増えることが分かる。 弾力性が大きいということは、代替的な消費手段が存在するために、需要が価格に敏感に反応することに起因している。従って、弾力性の高低は生活必需品か否かの判断の目安になる。

さて東京の場合、タクシー以外にも公共の交通機関は電車やバス、自転車など幾らでもある。従って、タクシー代を値上げすれば売り上げが減ることは初めから予想できたはずだが、今回はそれが正しかったことが証明された。これらの決定は経済学に関して無知で愚かだったと言わざるを得ない。売り上げを伸ばしたいなら、値上げではなく値下げするべきだった。
posted by Alexis at 05:52 | 経済関連の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする