2014年07月30日

相関関係と因果関係

相関関係と因果関係は似て非なるものだが、誤解が多いのでちょっと復習。2つの変数XとYがあったとき、XとYを観測して大体同じ方向に動いているならば、「正の相関がある」という。(逆方向ならば負の相関。)一方、Xを人為的に変化させたときにYも変化するなら、因果関係があるという。相関関係は因果関係のための必要条件だが、十分条件ではない。

例えば「戦後日本で花粉症が増えたのは、寄生虫の感染率が下がったからだ」という(因果関係を主張する)説を検証するためには、寄生虫に感染している母集団をランダムに2つに分け、一方には抗寄生虫薬を、他方にはプラセボを投与し、その後のアレルギーの発生率を見る必要がある。この説を真に受けるのであれば、寄生虫感染の多い発展途上国で実験すれば検証できそうだ。もっとも、花粉症が増えたことの別の説明として、戦後ハゲ山にスギを植えたからスギ花粉がそもそも増えた、という説も成り立つ。因果関係は実験しないと分からないから、相関関係に基づいた主張は疑ってかかった方がいい。(一方で、相関関係のないところに因果関係はないから、相関関係を見つけること自体には意義がある。)

歴史は1回しか観測できずサンプル数が少ないこと、倫理的な問題で実験できない現象もあることなどを理由に、経済学では相関関係を見る回帰分析ではなく、(完璧ではないのだが)できるだけ因果関係に近づくために操作変数法が発達した。(残念なことに、生命科学系の人には殆ど理解されていない。)私が精神科医の中村さんらと行なった研究では(論文はここ)、2008年に日本で多発した硫化水素自殺をテーマに、自殺のメディア報道が自殺を引き起こすかという因果関係を検証した。論文中のグラフを見ると、明らかに自殺件数と報道件数の間には相関関係がある。しかし、もちろん実験できないので真の因果関係は分からない。自殺が多いから報道が多いだけかもしれないし、報道が多いから自殺願望のある人が影響されて自殺するのかもしれない。そこで我々は、過去の自殺は報道に影響を与えるが、(自殺する人間が異なるため)過去の自殺は直接には未来の自殺に影響を与えないことに着目した。過去の自殺件数を操作変数として用いて分析したところ、硫化水素自殺の報道は硫化水素自殺を引き起こす(らしい)ことが判明した。

この結果から、メディア報道の規制が必要になってくるかもしれないが(論文にはそう書いている)、本当にそうかはまだ分からない。もともと他の手段で自殺する予定だった人が硫化水素自殺に切り替えただけかもしれないからである。これを調べるには硫化水素自殺の報道と総自殺件数の関係を見なければならないが、論文ではやっていない。(もう1本論文が書ける!?)
posted by Alexis at 14:09 | 小話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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